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執筆者の写真ラボ こども未来

magazineP vol.2 「NPO法人エンパワメントアフロッキー・インタビュー」のロングバージョンです!

更新日:2023年4月26日

2023年4月20日、magazinePのvol.2がようやく完成しました✨


昨年12月完成予定が、3月に延び、さらに一月が経って4月になってしまいました。


vol.2では、NPO法人エンパワメントアフロッキーの3人にお話をお聞きしました。

山梨県立図書館の会議室でミーティングがあるということで、

1時間だけお時間をいただく予定が、2時間もお話ししてしまいました。

本当にありがとうございました!

magazinePの誌面には掲載しきれなかった分を、

ロングバージョンとしてブログでお届けします。


インタビュー日 2022 年8月10 日(水)

インタビュアー magazine P制作チーム(内野・須田)




山梨県内で性・人権について伝える活動をしている方たちの思いとは?

そこにはどんな現状と課題、やりがいがあるのでしょう。

これまで約7000人もの小中高生・大学生・大人に、デートDV予防講座・いのちの安全講座などを提供してきたNPO法人エンパワメントアフロッキーの皆さんにお話を聞きました。


NPO法人エンパワメントアフロッキー・プロフィール

エンパワメントアフロッキーは、暴力のない社会・ジェンダー平等社会の実現をめざして、2015年からデートDV予防講座を子どもたちに届ける活動を始め、2020年4月にNPO法人を設立。デートDV予防講座の提供は、望月理子さん(代表)・板倉えりかさん・早川誠子さんを中心に活動している。また、ジェンダートークの会やシンポジウムの開催などの人権啓発活動もしている。


公式サイト








3人の出会い、「デートDV」を切り口に広がる思い


須田:皆さんの出会いが、東京で開催されたデート DV のファシリテーター養成講座と聞き、そんなに遠くまで出かけて行くなんて!と驚きました。どんな思いがあったのですか。




早川さん:私は中学校で養護教諭をしています。デート DV のケースの生徒がいて、暴力的な彼氏と別れればいいとアドバイスしたけど、なかなかその通りにならなかった。たまたま夏休みに、NPO法人エンパワメントかながわ(https://npo-ek.org)のデート DV研修が目に留まったんですよね。その研修が、別れさせるための方法とか、指導の方法ではなくて、今まで自分が思っていた価値観じゃないことで、よくできるんだって目からウロコだったんです。例えば、頭に来てドアを蹴ったという子に、「止めなさい」と指導する前に、最初にかける言葉って「足大丈夫?」だよね、とか。

もっと勉強したいと、東京でのファシリテーター養成講座に参加しました。全国から参加者が集まって、山梨県からは私の他に2人来ていることがわかった。それが、中学の国語教諭をしていた理子さんと坂本さん。これを山梨でもっと広げたいと、坂本さんの中学校で教わってきたプログラムをやることになりました。それを何回か続けていくうちに、他からもオフォーが来るようになって。最初はエンパワメントかながわさんが作ったプログラムを覚えてやっていたのが、子どもたちや先生の反応が直に伝わってきて、それをだんだん自分のものにして伝えていくことの大切さを感じました。

「こういうことを初めて知った」とか、「困っている人がいたら相談に乗ってあげたい」とか、そんな言葉を聞くと、小さいことだけど広げていったら、エンパワメントかながわさんの言う「暴力のない世界」の実現の一つになるんじゃないかなと思うようになりました。最初は全く遠かったところが近くなってきて、デート DV という切り口だけど、暴力であったり虐待であったり、どこかでいろんな問題につながっているので、デートDVをなくす以上のことになっていくと思いっています。最初は、そんなにやるつもりはなかったけど(笑)。




板倉さん:私は、スクールカウンセラーの仕事を始めようとしていた頃、山梨県の臨床心理士会から、エンパワメントかながわの講座の案内があって参加しました。その時、山梨から参加したのは私一人でしたが、「一緒にやったらどう」って代表の方に引き合わせていただいて。

それまで、臨床心理士として、DVや性被害の電話相談を受ける仕事をしていたんですけど。子どもの頃に性被害を受けた大人の方からの話を聞くことがすごく多くて。それも年齢は40才から70才まで。そのことを誰にも言えなかったり、親に言ったけどないものにされてきたりして。もう何十年も前の出来事なんだけど、その頃に受けた傷があたかもさっき起きた出来事のように話をされる方がたくさんおられました。それくらい深く心を傷つけられたのだと思ったし、予防の大事さ、今の子ども達が加害者にも被害者にも傍観者にもならないようにしたいと思いました。

それに、子どもから性被害の話をされた大人が、子どもの話をちゃんと聞けるようにしなくちゃいけないなって。小中高のスクールカウンセラーとして、これから子どもに関わるんだなって心積もりもありましたので、こういうような養成講座を受けておくべきじゃないかなっていうのが最初の動機でした。




望月さん:私も、中学校に、エンパワメントかながわののチラシが回ってきてデートDVの講座が目に入ったんですよ。そこに参加したのが、エンパワメントかながわと関わるきっかけでした。

自分の原点を考えてみると、高校のオリエンテーション合宿。みんなで将来の夢を話し合った時に、私は当たり前のように「結婚しても仕事をする」って言ったら、みんなが「えっ、子どもがかわいそう」とか言ったんですよ。それで私はびっくりした。調べてみると、その年は専業主婦が一番多かった年なんです。1970年代、高度経済成長の途中で。企業戦士の夫のために妻が家事・育児して、子どもがいてというのが標準で、世の中が動いていた。「子どもがかわいそう」って、男子だけじゃなくて女子も言っていた。男のために自分を変えるのは当たり前、そういうのが憧れみたいな子がいっぱいいたんですよ。でも、自分が思っていることを結婚の相手によって変えなくちゃいけないって、私にとってはあり得ない話で。

それで、新聞部に入ってから、いろんな取材をして「女なんてイヤ」ってタイトルで記事を書いたんです。世の中に出て待っているのは、男女格差。当時は、雇用機会均等法がなくて、結婚すると寿退社、給料も違うし。記事に書いたことで、社会って私の思っているのとは違う、自分は少数派だなって思いがあったんですよ。


内野:性教育に対してすごく危機感があったというわけではなく、パッと目に入って、好奇心の方が強かったって感じですか。


望月さん:性教育の必要性、それはずーっと思っていました。教員になってから、実際に性暴力に関する出来事はいっぱいあったから。でも、私がそこに対して支援ができないってことはわかっていた。だから、性教育を勉強したいって研究会も行ったし、LGBTQについても子どもたちには話はしていたし、伏見正江先生(山梨県立大学名誉教授)や佐藤和夫先生(千葉大学名誉教授)を招いて話をしてもらったこともありました。私の力では無理だなって思ったから、いろんな方に来てもらっていました。そして、ジェンダーの問題の中で性暴力っていうのが、そこが一番遅れてるなって、この活動を通してわかったんです。DVはジェンダーに基づく暴力とも言います。1993年に国連が「女性に対する暴力撤廃に関する宣言」をしてから世界の課題になっています。

女性が置かれている状況が本当にひどいのに、この前の新聞記事では、女子の生徒会長が増えた、だから男女平等みたいな。そういう見出しだったんですよ。記者がどう思ったかわからないけど。すごく不平等なのに、そこに気づかないように見せないようにしている。その中で、性の問題が一番タブー視されているから、なかなか周りに言えないじゃないですか。辛い思いをしている人たちがたくさんいるのに、そこを見ないようにしている。それを感じていたから、エンパワメントかながわの講座が目に入ったのかもしれません。



県をまたいで協力、

それぞれの専門を活かして増えてきた活動の場


早川さん:今は、中学・高校のデート DV 予防プログラムを中心に、養護教諭の研究会やP T Aからもオファーがあります。 それから小学生が対象の「いのちの安全講座」。デート DV という言葉自体、まだ知らない人の方が多い、市民権を得てないですよね。まずは知ってもらっていくところからですね。


須田:すごく基本的なところなんですけど、今は何人で活動しているんですか。


早川さん:デートDV予防講座は私たちが中心です。


望月:アフロッキーの活動として、毎月開いているジェンダートークの会やシンポジウムなどは、伏見先生や他のメンバーと一緒に活動しています。ジェンダートークの会は、須田さんも何回も参加していただいてますが、県立図書館や韮崎のニコリなどで開いています。ジェンダーに関する最新の情報を共有し、お互いの経験を聴き合ってエンパワメントしています。


須田:この間、日川高校のワークショップにいらしていた北原さんは?

(※2022年7月14日、山梨県立日川高等学校で開催された「デートDV予防ワーク

ショップ」を取材させていただいた。)


板倉さん:きたさんはエンパワメントかながわの講座を受けた方で、長野県で活動しています。


早川さん: エンパワメントかながわ主催の研修がいっぱいあって。例えば電話相談員やLINE 相談の研修とか。今は、もうオンラインでしょっちゅう交流しています。長野で人が足りない時には、お声がかかって山梨からちょっと来てくださいっていうこともあります。


須田:お互いに助っ人として協力しあっているんですね。


板倉さん:そうですね。ワークショップなんかをやるときに。


早川さん:研修に来ている人って、皆さん個人個人ですごく活動されていて。助産師さんだったり、大学の先生だったり、町とか市とかの相談員。そもそもみんな凄いキャリアのある方、専門知識もある方なんですけど。こうやって小中高大・一般向けの講座を、この数こなしているのは私たちだけだと思います。エンパワメントかながわでは、私たちは成功例って言われています(笑)。


須田:こんなに幅広い活動、もっと大勢のメンバーでやっているんだと思っていました。


早川さん:メンバーも、少しずつ増えていく予感はしています。でもやっぱり、私は養護教諭の仕事の関係で行けないこともあります。

広報活動も理子さんが中心になって、チラシを作って学校に届けたり、知り合いに声をかけたり。大きかったのは、県の男女共同参画担当のバックアップ。そこの企画としてデートDV予防プログラムを実施させてもらった。その参加者から「うちの学校でも」と言われたり、養護教諭が集まる研究会の中で話をすると、そこから「うちの学校に来てください」と依頼につながったり。本当に、ちびっとちびっとなんだけど増えてきました。


板倉さん:学校って意味ではつながりがあるんですけど、それぞれ仕事が違うので。国語の先生、養護の先生、スクールカウンセラー。それが強みになってきたところがあると思います。「学校つながりの人達なんだ」ということで、少しずつ信頼してもらってきたのかなって。


早川さん:そういうところは意外と壁が高くて、NPO法人というだけでは「何者だろう」と思われることもあります。



デートDVの認知度の低さ、デジタル性被害の新たな問題も、

#me too&フラワーデモで生まれた流れに乗って越えていこう


須田:活動がだんだん広がってきた中で、見えてきた課題や、逆に良い方に変わってきたと感じることはありますか。


早川さん:デートDV予防を進んでやろうっていうところがなかなか少ないですよね。デートDVの認知度が低いから、それを重大なことだと見てない。子ども達同士の小競り合いくらいな感じでしか思っていない人もたくさんいるし、その言葉自体を知らない子どもも教員もいっぱいいて、まだまだ浸透していない。人権であったり、ジェンダーであったり、デートDV、暴力っというところへの意識の向け方に温度差を感じます。


板倉さん:世の中の変化というと、SNSとかデジタル関連の発展ってすごい。これまで思いもしなかったことが起こり始めてきている。「デジタル性被害」という問題が顕著になってきて、なおかつ18歳成人っていう法改正もあって。アダルトサイトにおける18歳の扱いはどうなるか、着目されるようになったんですけど。まだ当事者や保護者の世代の認識が追いついていないし、商売をする人の方が上手っていう現状があるので。これからも形を変えた被害が発生することがあると思います。支援する側もどんどんキャッチアップしていかないといけないですね。


望月さん:私たちがエンパワメントかながわの講座を受けたのは、フラワーデモ(※)の前だったけど、やっぱりフラワーデモの後、世の中の流れも少し変わってきたかなと思います。(※『フラワーデモを記録する』エトセトラブックス


須田:良い方にってことですよね。


望月さん:伊藤詩織さん(https://www.shioriito.com)が名前を出して性被害を訴え、山梨でも(一社)Spring代表理事の山本潤さん(http://spring-voice.org)を講演会に招くという時代になった(2019年・被害者支援センターやまなし主催)。その翌年には、河野美代子さんの講演会もありました。河野さんは、30年くらい前に、性暴力について本を出している方。広島のワンストップセンターをやっている方です。山梨では県が中心になってやっているけど、広島は病院が主体になっていて、河野美代子さんはそこの産婦人科医で、10代の性暴力被害のことをずっと取り組んでいる。

山梨では、県立大学の伏見正江先生がリプロダクティブヘルスライツの啓発、女性の健康支援を北京女性会議の後から長い間訴え続け、県のジェンダー平等政策、DV支援対策、性教育に関わるさまざまな事業を先頭に立って推進してこられたことはすごく大きいです。伏見先生から私たちはたくさんのことを学んでいます。フラワーデモやまなしも伏見先生のお力があって実現したんです。


早川さん:世界的にもme too運動があって流れが大きく変わってきていると思うし、それぞれが小さい活動を継続しているってことがやっぱり大きい。



デートDVに至ってしまう過程にあるものってナニ?

暴力をなくすために大切なことってナニ?


内野:性暴力は、ジェンダーバイアスから始まって、暴力を助長するような構造ができあがっているように思います。デートDVから家庭内のDVにつながっていったり、延長線上にいろんなことが絡んでいると思うんですけど、デートDVをしてしまう前の過程には何があると思いますか。急に中高生になってデートDVをしてしまう訳ではないと思うんですけど。


板倉さん:時代とか文化とかいろんなバックグラウンドがあると思うし、地域性もあるかなと思う。私たちはワークショプの後に、トークタイムという相談の時間をつくっています。けっこう人口が少ない地区の小学校でワークショップをやった時に、小4の女子がクラス全員で押しかけてくれたんですね。「イヤって言っていいんですね」って、めっちゃ目をキラキラさせて来たんです。

後で考えてみたら、狭い地域での共同体で、被害・加害があったとしても、とりあえず共同体を維持させる、穏やかに持続させていくためにはないものにしていかないといけない。そういうことが今まで脈々と起こってきたんじゃないかな。人権ベースで子ども達に話した時に「イヤと言っていいんですか」と反応があった、それはすごく忘れられない経験でした。これからの子ども達は「イヤと言っていい」という感覚を持って生きていってほしいなと、その時はすごく思いました。


内野:すごいですね。


早川さん:学校では、「他人を大切にしよう、自分を大切にしよう」って言葉では飛び交うんだけど、自分を大切にする仕方は教わらない。自分の気持ちよりも他人の気持ち。他人と合わせなさい、みんなと合わせなさい。保育園からもそうですよね。自分の気持ちを言ったらいけない。みんなが「これが良い」って言ったら、「それが良い」と言わなきゃいけないような教育を受けているんですよ。こういう答えを言うのが良いんだって誘導的な道徳だったり。だから自分の自然な気持ちを表現したり、それが認められたりっていう場面が学校ではないんですよ。


板倉さん:子ども達がワークショップの感想を書いている時にも、先生から「みんな、人に迷惑をかけちゃダメだぞ」みたいな言葉がけが、ちょいちょい入る。


早川さん:学校って、とにかく枠に入れていかないと卒業させられないとか、難しいんだけど。そういう教育がだんだん崩れてきているっていうのは、性被害や自殺の件数、不登校とかね。このままじゃダメなんだというのが、全部数字に上がってきている。

性被害をなんとか無くしていくには自分でSOSを出さなきゃいけない。去年あたりから、SOSの出し方教育をしなければいけないと、県とか国が言い始めた。でも、それって本当に大切なこと。それって私たちがやっていることだよねって。いやって言って良いんだよ、気持ちを言って良いんだよ、ちゃんと相談するんだよって。


板倉さん:いろんな人に助けてもらって良いんだよ、とかね。


望月さん:やっぱり学校は、子どもの権利のことを教えてこなかった。学校が求める理想は、素直で明るくて元気な良い子。素直な良い子はイヤだって言っちゃいけないわけだから。


早川さん:教室にスローガンが書いてあるじゃん。


望月さん:「明るい」とか、「元気よくおはよう」とか。モジモジしている子だってね。


早川さん:居ていいんだよね。金子みすゞさんの「みんなちがって、みんないい」なんて言いながらも、みんな同じがいい。


内野:それで社会に出たら急にオリジナリティ求められたり(笑)。おかしいですよね。


望月さん:さらに、子どもの権利の中でも、性の権利に触れることがなかなかない。


須田:権利を教えるって、大人だったり、国だったり権力がある側にとってはすごく面倒くさいというか。家庭でも、子どもの権利を考えると、頭ごなしに「親の言うこと聞いとけ」で片付かなくて、しっかり会話してお互い納得してって、プロセスが複雑になる。子育てをしていて「今、自分は、子どもの人権を大切にしているんだろうか」と思っちゃう時もある。でも、その面倒臭いことから逃げていたらダメなんだ、とも思います。

3才の息子と一緒に児童センターに行った時に、遊び始めたおもちゃを、側にいた子が「貸して」と言って、息子が「イヤだ」って答えたんですよ。その時に、スタッフの方が「自分のイヤだって気持ちを言えてえらいね。お母さん、それってすごいことなんですよ」と言ってくれて。それはすごく心に残りました。

小さい頃から、譲ってあげなさい、我慢しなさい、自分はまだ遊びたいって気持ちがあっても押さえ込まなきゃ。そういう刷り込みも根深いものがありますよね。


早川さん:まだ遊び始めたばかりだからって、その子の気持ちにフォーカスできるアンテナって大事ですよね。私たちも学んでからそういうことができる。元々は、どっちかっていうと、「貸してあげなさい」と言ってしまう方だったと思うから(笑)。


須田:ただ単に「貸してと言われたら、いいよって譲るものだよ」ではなくて、状況に応じて、細やかなやり取りの元にお互いが納得して、じゃあ別のもので遊ぼうってなる。それって、すごくいっぱい考えなきゃいけないし、言葉も使わなきゃいけないし、大変なんだけど、丁寧に丁寧にやっていくことが大事なんだなって思いました。


望月さん:対話力って、森田ゆりさん(http://empowerment-center.net/moritayuri/)は言っています。対話力を鍛えることで、互いに権利を大切にできる。どの人もみんな権利があるわけだから。権利と権利がぶつかった時に、暴力ではなく話し合うことで、お互いを尊重する。一人一人、自分が大切だと思ってないと、相手も大切にできない。でも、自分を大切にってあまり言わないですよね。人に迷惑をかけちゃいけない。だから相談もできないし、心配かけちゃいけないと思うと親にも言えないし。対話力や自分を大切にできるということが、みんなの権利を守ることにつながっていると思います。



「ありのままの自分でいい」が子ども達の心に響く

知ることは転ばないための杖になる


早川さん:講座の中でありのままの自分でいいんだって言葉をかけるんだけど、その言葉が落ちる子がたくさんいるんですよ。私は、すごい意外だった。本当にありふれた言葉なんだけど「ありのままでいいって言われて安心しました」とか。


望月さん:「私は私のままでいいと言ってもらえて嬉しかったです」とかね。


板倉さん:すごく感想に多いよね。


早川さん:ジェンダーとかLGBTQにもかかるんだけど。ありのままでいられない教育を受けているし、本当の自分を隠さなきゃいけないという社会で生きているってことなんだと思いますよね。


内野:今は、SNSですごいすてきな写真とか見て、こうじゃなきゃいけないとか、今の自分じゃダメだっていう気持ちが強くなってしまうのかなと思いますよね。


望月さん:ワークショップで使うスライドに「I’m OK、You are OK」って小さく書いていて。この前、初めてその言葉を声に出して言ったんだよね。そしたら、感想にちゃんと入っていました。一回しか言わなくてもね。他にもプログラムの中に「あなたはあなたのままでいい」のような、権利に関わる言葉を散りばめているんですよ。「暴力はダメ」っていうのは言わない。それは絶対言わないんですよ。でも、子どもたちの感想には「暴力はいけないと思った」と書いてある。


早川さん:「そうなりたくないし、そういう目にあっている人を助けたいと思った」とか。DVってお互いが気づくことも大切だけど、周りの人が気づいて、どっちかを支援していくことがすごく大事なので。相談に乗ってあげたいという気持ちを育てることもすごく大切だなって、反応を見て思いますね。


望月さん:無関係な人は誰もいないって講座で感じる子どもがいると嬉しい。もちろん、被害を受けたくないとか、自分の加害を思い出していけなかったなとか、自分は加害をしていたかもしれないと気づくっていうのもあるし。それもすごく大きいこと。


板倉さん:トークタイムに「私、やってしまったかもしれない」って来てくれることもあって。「どうしたらいいでしょう」って悩んで。必ずしも異性カップルだけじゃなくて、同性カップルだったり、友達に対してということもあったり。ちゃんと汎化させて、わかってくれていると感じます。知ることは杖になる。


早川さん:知ることで予防になるのかもしれない。自分も虐待を受けていたとか、親のしていることは暴力だったって気づくこともたくさんあって。暴力は必ずしも殴る蹴るだけではなくて、精神的なものもあって、その暴力の広さっていうことを知ることも大きいよね。


板倉さん:前の質問にも関わることだけど、「女は一発、殴ればいいんだ」とか、「嫌よ嫌よは好きなうち」みたいな言葉が酒の席で出るような文化が脈々と刷り込まれているんじゃないかと思います。私は東京の生まれなんですけど、山梨に来てびっくりしたのは、組があって「男衆(おとこし)は上座で、女衆(おんなし)は下座に座れ」っていう雰囲気があったことです。小さい時から組の集まりに連れて行かれて、そういう文化で育ってくれば、なんとなく女が下なんだって思うんじゃないかな。いきなり始まるんじゃなくて、そういうものがバックグラウンドにあるかもしれないと思います。


望月さん:教員の管理職の女性の割合も、山梨は全国ワースト1。本当に少ない。上に立つのは男だから、女が校長なんてありえないって思われている。

男性だったら管理職になるのが当たり前だから、その年齢になると校長室に呼んで「管理職登用試験の対策をしましょうね」ってなるんだけど。女性だと、廊下で歩きながら「管理職試験受けませんよね」って感じ。


内野・須田:えーーーー


早川さん:夫婦で教員の場合は、夫が校長、管理職になったら奥さんは辞めるという慣例もありました。今はだいぶなくなりましたけど。


望月さん:今はなくなったけど、30年前くらいはそういうのがあって、私の主任だった女性は「生皮を剥がされるようだ」と言って、教員を51歳にして辞めたの。夫が校長になるために。

もう、その言葉は忘れられない。だから、そういう雰囲気の中で女性の校長が少ないっていうのは当然って思う。


早川さん:そういう時代がずっとあったから、女性も自分の力を発揮しようって気持ちがなくなっちゃうんだよね。



声をあげることで変わっていく、

一度消されてしまった性教育の灯を再び!


内野:ジェンダーも性教育も政治も、話をするのはタブーだと、感じながら育ってきました。今、私たちが「おかしいってことはおかしいって言ってこうよ」って、子どもを育てていかないと、性暴力も、政治の無関心も、いつまで経っても再生産されてしまうと感じています。私たちの同世代のお父さん・お母さんにも働きかけたいし、子どもたちにも働きかけたいと思っているんですけど、アフロッキーの皆さんは、これからの山梨の性教育をこんなふうにしていきたいとか、やりたいと思っていることはありますか。


早川さん:2003年に東京都日野市にある都立七生(ななお)養護学校の性教育が裁判沙汰になって、そこから性教育バッシングになりましたよね。結局、バッシングされたことで、性教育が学校現場でできなくなっちゃんですよ。そこから急激に、指導要領の中から、性交の部分、どうして受精するかって部分はカット。性教育バッシングが起こる前まで、それぞれの学校で工夫して性教育をしていたんだけど、それも全部NGになったんです。やらなくなったら勉強する教員も少なくなったし。やっぱり性のことをちゃんと語れなきゃ性教育できないから。

性教育をやるってかなりのエネルギーがいる。やらなきゃいけないってわかっているけど、やる技術がないし、時間がない。英国数理社をやらなきゃいけないし、他に修学旅行の勉強もしないといけない。いっぱいある中で、じゃあ性教育どこでやるのって。よっぽど情熱のある先生とか危機感がある人が、学校体制の中で「性教育の時間ください」「どこで取れますか?」「じゃあここでください」って、他の時間を削ることをお願いしてやっと確保している。すごくハードルが高いです。

さらに、やるとしたら、どんな内容をやるか。小学生1、2年生くらいなら、プライベートゾーンとか、生活科の中で、二分の一成人式とか、やれることがあるんだけど。4、5、6年って思春期に本当に近づいて重要なところになってくると、ハードルが高くて、みんな何を言っていいかわからない感じになってしまうんですね。よく見ると、細かく一生懸命にやっている学校とか、先生もいるんですけど。全体で言うと動きがないんです。やらなければいけないってなってなければ、やらないに越したことはないというか、他にもやらないといけないことがたくさんあるから、取り込んでいけないと言うのが現状ですよね。


望月さん:多くの都道府県のHPに性教育の手引きが載っているんですけど、山梨県にはないんです。


早川さん:なんか山梨県は行政が弱いよね。やりやすいところにはすぐ着手するけど、性教育ってなかなか難しいところ。専門性がある主導者もいないと思うんだよね。


望月さん:ユネスコが包括的性教育のガイダンス(https://sexology.life/world/itgse/)を出したけど、世界の潮流から日本はとてもとても遅れています。あのようなところに行くには、「生命(いのち)の安全教育」(https://www.mext.go.jp/a_menu/danjo/anzen/index.html)30分、1時間で何ができるのかって思います。でも小さな一歩も社会を変える一歩になると思います。


早川さん:家庭の中でも、親と子で性の話もなかなかできない。親世代も結局、性教育をされていないので、じゃあ、子どもとどう性の話をするって言うと、やっぱり引けちゃいますよね。


内野:そうですよね。私も須田も関心があるので、本を読んだりして、どうやって話そうか考えたりするんですけど。家庭によって差があるじゃないですが、そんなのやってる暇はないとか。やっぱり義務教育で性を学ぶ場があったらいいと思うんです。そこで、どんどん次世代が変わっていく、加速されていくような気がします。でも、今聞いたお話だと、なかなか時間がないんですね。


望月さん:県の事業として、若年層への性暴力防止のための動画づくりを大学生がやるってことになって、私たちも協力をしています。

私たちは伏見先生と一緒に、去年、県に要望書を出しました。4月が性暴力防止月間だけど県は何もやっていなくて、HPにも一言も載っていない。だから、県としてもデートDV予防講座や生命の安全教育にも取り組んでくださいという内容です。その後、「ぴゅあ(男女協同参画推進センター)」の3館統合の話があって、知事と県民の意見交換会があったんです。私たちも参加して、ジェンダー平等の課をちゃんと作ってほしいと言ったら、男女共同参画推進監が任命され、今年はさらに男女共同参画・共生社会推進統括統率官という部局ができたんです。そういうふう風に声を上げることで変わってはいくと思います。今年も伏見先生、都留文科大学の性教育サークルSexologyの髙橋諒さん(https://sexologypeertsuru.wixsite.com/my-site-1 )と共同で、知事、県教育長、男女共同参画・共生社会推進統括官宛て議に「若年層を性暴力の当事者にしないでください」と性暴力の予防教育推進を求める要望書を提出しました。


板倉さん:大学生にとって、自分がいつか親になるって、そんなに遠い未来じゃない。そういう方々の活動と手を結ぶというのは一つの方法かなって気がします。要は、自分たちは大事なところを抜かされているわけじゃないですか。教えてもらってない。結局、ネットにある怪しいところから性交の仕方を知る。どうやってコンドームをつけるかとか、そういうことを知りたいって声が出ていましたし、自分たちで一生懸命に動画をつくってきていました。保護者になる一歩手前の大学生の方と手を繋ぐと、次世代を巻き込むことができると思う。


望月さん:若者がなんかやった方がいいってことを去年から県に何回も言っていたんですよね。性教育とかデートDV予防をもっとしっかりやってほしいと。そうしたら実現した。本当に波っていうのはある。

七生の養護学校のことだって、最高裁で学校側が勝ったんですよ。勝ったのにも関わらず、そのことで、じゃあ性教育をしようっていうことに日本はならなかったんですよ。


早川さん:みんな引けちゃった。もちろん教育課程で性交は扱わないとされたこともあるけれども。


望月さん:以前、山梨にもCAP(http://cap-j.net)という子どもへの暴力防止プログラムを学んで、講座を届けるグループがあったんです。2005年、安倍晋三議員を座長とする「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が設置されて、2006年に安倍政権になって性教育へのバッシングがひどくなった。山梨でも急激に講座依頼が減ったそうです。依頼がないことには活動ができないということで残念ながら解散となってしまった。


内野:政治の力で…!


望月さん:すごい偶然は重なるって思います。ジェンダートークの会で活動しているメンバーのうち2人は、元CAP山梨のスペシャリストだった人なんです。また、アフロッキーのH Pをつくりたくて無料相談会に行ったら、講師がCAP山梨の事務局をしていた人だったんです。それで色々話を聞くことができました。同じ志の人に出会うんだと嬉しかった。



小さなアクションで山梨を、社会をアップデート!


須田:子どもの頃、うちに性教育の本がたくさんあったんですよ。それを段ボールでどさっと送ってもらって、特に私の記憶に残っているものを少し持ってきてみました。

↑日本の性教育のパイオニア・北沢杏子さんの性教育の絵本(アーニ出版


望月さん:あっ、北沢杏子さんだ。北沢杏子さんって言ったら、ほんとに日本の性教育のパイオニア。私、ここの出版社に行ったよ。その当時はまだ性教育バッシングが始まる前だったから、養護教諭と保健主事がバスに乗ってアーニ出版に見学に行ったの。


早川さん:私も行ったよ。


望月さん:1990年代、北杜市が北沢さんを講演に招いたりもしていた。


須田:40年前くらいは、こういう本がたくさん出版されていたのが、バッシングで一回下火になってしまった。それが、今はわかりやすくてポップな性教育の本がどんどん出版されるようになりましたよね。


望月さん:これは最近出版されたんですけど「セイシル 知ろう、話そう、性のモヤモヤ 10代のための性教育バイブル」という本です。(セイシル:https://seicil.com


内野:具体的でいいですね。10代の時に、これ読みたかったなぁ。


早川さん:ほんとだよね。知りたかったことだよね。


内野:知りたかったー!


望月さん:私が大学生の時は、大学の生協で、『女のからだ性と愛の真実』(合同出版)って本がベストセラーになったんです。すごい売れていた、ということは、大学生であっても自分の体を知らない。その本、今もうちにあるんだけど。ウーマンリブの中で生まれた本だっていうことが後からわかった。自分の体のことを自分が知らないショックはすごいあったと思う。


須田:お話を聞いて、腑に落ちたことがいろいろあります。一人一人が扉をこじ開けて、小さくても性の知識を伝える場をつくっていきながら、それが社会の制度として、学校で絶対このことを教えなきゃダメだよってなることを目指していかないといけない。

英数国理社も大事だけど、性教育、デートDVとか人権のこととか、1年に1時間でも時間をつくって伝えようよって人が、色々なところに生まれていけば、そこにつながっていきますよね。


早川さん:お母さん・お父さん目線でもちょっと声を上げるとか、担任の先生や養護の先生に言うとか、ぜひやってほしいですよ。それが原動力になるんですよね。「あっ、いいかもしれない」「じゃあ、今度PTAで話そう」とか、ちょっとしたアクションが人を動かすってこともあるので。そういう視点で誰かと繋がったり話をしたりってこともいいと思います。


内野:家庭の中で、自分の子どもだけ性や人権に対しての意識を高めても、巣立っていく社会全体の意識が低かったら、子どもを守りきれない。皆さんの活動をたくさんの人に知ってもらって、社会全体の意識のアップデートにつなげたいです。今日は長い時間、ありがとうございました!


↑新しいものから、なつかしいものまで、すてきな性教育の本があります!  手前は望月さんが持ってきてくださった近年出版されたもの。










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